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​    浅間高原経由草津

 時々長距離ドライブに出かける。その都度、辺ぴな山奥の景色の中を通過すると決まって思うことがある。 それは「こんな静かな山奥、人っこ一人いないのだから、RCの飛行機とばせないかな?」と思うのである。 妻と旅行中にいつもこんな事を言うので、その時は急に不機嫌になるのだ。そんな事が数回続いた時に、 また妻と二人で温泉ドライブに行くことになった。今度こそ、やってみようと決心し、 高翼の飛行機を後部座席にそっとしまった。

 東京から関越高速に乗り、熊谷、藤岡を経由して松井田で降りた。 横川のドライブインで名物の釜飯を食べ、紅葉真っ盛りの碓氷峠の旧道をゆっくりと登った。 平日の為、行き交う車も少なく、旧信越線の眼鏡橋などを見ながら、のんびりと軽井沢についた。 新幹線が開通し真新しい駅ができて、昔の記憶と多少違っていた。 中軽井沢から右に曲がると、昔のままの道になっている。往年のバイク展示館のある星野温泉を右に見て、 道は登りにかかる。

 スケートセンターやホテルを左に見ながらくねくね登ると、しばらくして見晴らしが良くなる。 最後のカーブを大きく右に回ると、峠の茶屋に到着する。左手に薄く噴煙を上げる浅間山がそびえ、 茶屋の前から登山道が伸びている。真冬に来ると真っ白な中に、真っ白な浅間、 周辺は雪をかぶった針葉樹で、心の洗われる様な景色になる。今は秋なので地上は枯葉でいっぱい。 もう、落ちきってしまい、木には枝しか見えない。

 茶屋は閉店しているし、観光客はちらほら。しかし、飛行機を飛ばすと情緒を妨げので気がひけるし、 万一の危険もありうる。ここでは止めた。車に乗りこみ「鬼押し出し」方向に少し進む。道は広い、 車はほとんど来ない。でも、道の両脇は高い樹木でいっぱい。着陸で引っかける恐れがありここもまずい。 途中で右手の広い脇道に進む。昔、ホンダのドリームやヤマハのYDS1などが走りまわった、 浅間ロードレースが行われた浅間高原の方向である。

 暫く行くと左手に牧場が広がっていた。牧場には人はもとより動物も一切いない。道は広い舗装の直線。 右手は背の低い潅木の林。「ム」最適だ。暫く待機して様子をうかがった。見える範囲に人家なし。 家畜無し。車の通行無し。30分しても1台も来ない。「やれる」。

 満タンにし、自分だけの広い、そして初めての「舗装道路」の滑走路を離陸。奇麗に上昇、 青空の中を悠々と飛行。潅木の林の上を、少し雪をかぶった浅間山を視界に入れての遊覧飛行。 これをやりたかったのだ。暫くのんびりと飛行を続け、燃料切れまじかになり降ろす事にした。 2回ほど滑走路上(道路上)をゆっくりと旋回し、安全を確認して着陸体制に入る。 真っ直ぐ伸びた道に添って、ゆっくりと降下、着陸進入体制。風も無く着陸には最適条件だ。 ゆっくり、ゆっくりこちらに向け高度を下げた。地上5メートル位になると、 飛行機と道路が同時に視界に入るようになる。

 「え」タクシーがこちらに向けて進行してくるではないか。既に飛行機はタクシーの上3m程まで降りている。 一瞬、上昇しようかと思ったが、運転手が笑顔でこちらを見ているので着陸を決行した。 着地し、滑走してくる飛行機の数メートル後を、追っかけるようにタクシーが走行してくる。良く見たら、 女性の運転手であった。飛行機が路肩に待避するのと同時に、タクシーはそのまま私の前を走り去った。 私は心の中で「どうも、すいません。」と言ったのだが通じたのだろうか。

 もうこんな所で飛ばすのはやめよう、と、さっさと片付けて長野原町に向かった。しかし、 周辺で見たのは先ほどのタクシー1台だけである。何てこった、ものすごい偶然である。長野原町を抜け、 草津温泉の案内に従い、右折し山を登って行ったのである。それ以来、田舎を走っていても 「RC飛行に良い場所だ」と言わなくなり、妻のイライラの原因が一つ減ったのである。

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