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ポッポ屋(鉄道員)の子供とラジコン

 30年ぶりに映画館に出かけました。高倉健主演の「鉄道員」(ぽっぽ屋)の映画です。 話題作だからご覧になった方も多いと思います。評論家ではないので映画の善し悪しは、 各自の判断に任せるとして、一個所だけ「あれ!」と思った部分があります。それは、気動車が走りだしたあと、 高倉健の扮する駅長が、すぐに子供の待つ駅舎に戻って行く場面です。 鉄路一筋に生きる男に「イメージにあわないな!!」と思いました。

 なぜ30年ぶりに映画を見に行く気になったか説明すると、私自身が「鉄道員の子」だからです。3歳位の時から毎日、官舎の窓枠に登り、蒸気機関車を見ていました。 地響きさせて「どでかい」列車が通過するのに興奮していたのです。外に出られる年頃になると、駅の貨物倉庫の方によく遊びにいっていました。ここでは蒸気機関車が、 数台の貨車の入れかえをしており、身長の3倍はあろうかと思われる働輪や、 遥か彼方の運転台から話しかける機関士を相手に遊ぶのです。眼の前で蒸気を吐き出すドラフトや、 複雑な動きをする連鎖棒に見とれていたのです。

 現在の様に鉄道の敷地に柵などなかった危険な時代だから事故もありました。母と昼食をしている時に、 隣の助役のおばさんが、「お宅の坊っちゃんが汽車に轢かれた---」と飛び込んで来たのです。 母はきょとんとし、「ご飯食べていますけど?」と返事しています。

 何が起きたか??要約すると
「我が家から30m位の所で、ホームの下に潜り、遊んでいたのか、レールの音を聞いていたのか不明だが、 進入して来た貨物列車に頭をやられた子供がおり、その体つきが、 私にそっくりなので「駅長の子供だ!と大騒ぎになっている。」とのことでした。箸を放り投げて私も現場に急行しました。 子供は既に線路脇の石炭小屋に敷かれたムシロの上に横たわっていました。 大人が10人位とりかこんで見守っています。私は、反対側のホームに登り、中を覗き込んだのです。 子供の顔は半分ぐちゃぐちゃになっており、割れた西瓜のようでした。大人が「泣く元気もないね!」、 「だめだね!]と小声で話しをしています。数分でその場を離れてしまったので後の事は判りません。 顔の判別が出来なかったので、隣のおばさんが私と思いこみ、我が家に掛け込んで来たのでした。 当時レールに耳を付けけて、車輪の音が近ずくのを聞く遊びがはやっていたのです。

 ある時、貨物列車が待避線に入り込んでしまう事故がありました。 電気機関車は車止めの砂利山に乗り上げて、自力で脱出できない状態でした。この復旧工事は人海戦術で、砂利を除き、 てこを用い車輪をレールに戻す作業は、かなりの時間がかかっていました。 連結された貨車が踏み切りをふさいでいたので、遠くの踏み切りに回り電気機関車の側まで見に行ったのです。 頑丈と思われた電気機関車の台車が、ぐらぐら動くのか!と感心して見ていました。数時間見ていたのでそろそろ家に帰りたくなりました。疲れてもいたので、 近道して帰る事にしました。電気機関車を軌道に載せる復旧工事をしている人の脇を抜け、 線路を横断しようとしました。その時、大きな腕が2本、顔の前を横切り、私の身体は空中浮遊し、 2mほど電気機関車の方に寄せられてしまいました。降ろされて数秒後に、 私の眼の前を列車が高速で通過したのです。 これが、疾走する車輪を、最も近くで見た記録になります。もし、その時の方が生存していたなら、 お礼を言うべきかなと思っております。

 この事故の時、官舎のおばさん達は総動員で握り飯作りをしていました。大きな箱に、それこそ本当に、 山の様におにぎりを山積みしていました。当時、銀舎利のご飯など食べられなかったので、 白米だけのおにぎりは眩しく見えました。でもそれは働く人達の昼食なので、私は食べられませんでした。だから鉄道員の日常は良く見ていました。発車の時に駅長が合図として振る「赤、青と色の変わるカンテラ」 が欲しかった。機関助手が手渡すタブレットの中身は何だろうと思っていたが、 中にあんな重い真鋳の円盤が入っている事も知った。この円盤が重い、走行中の特急列車から、 腕で受け取るにはかなり衝撃が有るだろう。 (その後、危険なので蚊取線香みたいなタブレット受けがホームに、機関車には自動チャックがついた。)

 駅長は列車の到着時間になるとホームに出て、「指差確認」(しさかくにん、指で指して自身で安全や自分の操作、信号等を確認すること)で安全を確認し、進入する列車を待ち受ける。 乗降が済むと、前後の安全を指差確認で確認した後、昼はピーと笛で、夜間はランプを振って発車の合図をする。 列車が動き出し、ホームを離れ、田んぼを過ぎ、カーブして、視界から消えるまで見送る。そして、 指差確認で、無事、次の駅に送った事を確認してから、ゆっくりと駅舎に戻る。 この動作は、風雨でも、吹雪でも変わりません。高倉健扮する「ポッポ屋」の駅長が吹雪きの中、ホームに出て汽車を待つ場面は父の姿に良く似ていた。しかし、 汽車が動き出してすぐに駅舎に戻ってしまう一場面は、「それはないだろう!!」と思ってしまったのです。 実際の場面は1秒位ですが、これが、痛く、鉄道員の精神を欠く場面に見えてしまったのです。 こんな風に映画見る人はいないかな?


 でも、これらは映画全体から見れば取るに足りない些細な事です。でも、こんな些細な部分が成功して いれば更に完璧になるのにな!と思うのです。最近の映画はCGを多用して作る物が多くなっています。 でも、明らかにCGと判るものがほとんどであり、映画館に出かける気がしません。そんな中でも実際に、 実機を用いた映画には、それなりのリアル感が得られます。 つまり、良く出来たCGの画面を用いたコンピュータゲームと、実際に空を飛ぶラジコンの航空機は、 同じ様にスティックで操作しますが、比較にならない位の違いがあるのです。ゲームオーバーではなく大破し金がかかるのです。もっとも、現代においてはアメリカの空調の効いた部屋から、ステックでイスラム過激派を無人機の殺人兵器で攻撃する時代です。ゲーム感覚でできるでしょうが実際は外国の戦闘車両が、家屋が、人に甚大な被害を与えられる時代になってしまいました。

 捕捉;「指差確認」のほかに、「指差呼称」(しさこしょう、声に出して周囲の仲間に安全確認を知らせる)「指差喚呼」(工事部門の朝礼などで安全確認を徹底するため全員で唱える)もある。

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